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反射型拡散光トモグラフィ
RDOT:Reflectance Diffuse Optical Tomography


脳という小宇宙 − 近赤外光を用いた生体計測

浜松ホトニクスの微弱光検出技術は、カミオカンデでのニュートリノ研究(小柴昌俊東大名誉教授・2002年度ノーベル物理学賞受賞)に威力を発揮し、「大宇宙」の神秘の解明に一石を投じました。そしていま私たちは、「脳」という「小宇宙」の秘密を解明する技術の研究開発にも取り組んでいます。その最も注目されている一つが「反射型拡散光トモグラフィ」(RDOT: Reflectance Diffuse Optical Tomography)*です。

*
「光CT (Optical CT)」という呼称を用いる場合もありますが、別の技術との混同を避けるため、本稿では「反射型拡散光トモグラフィ(RDOT)」と表記いたします。


1.近赤外光による生体計測


近年、波長700〜1,200nm近辺の近赤外領域の光を用いた生体計測技術の研究が盛んに行われるようになってきました。近赤外領域の光は比較的高い生体透過性をもっており、組織内の酸素代謝測定が可能であることが明らかになってきたからです。またこの研究を支える半導体レーザ、光ファイバー、極限微弱光検出器などのデバイスが発達してきたことも、その背景としてあげられます。

21世紀は高齢化社会といわれ、病気を起こさない予防のための医療が注目されてきています。異常をいち早く察知できるよう、24時間連続して測定が可能な医用診断技術などの開発・導入が必須となってきています。人体に害を及ぼすことなく連続使用できる究極のデバイスという理由からも、特に近赤外光の利用が注目されるようになってきたのです。

TVゲームタスク

RDOTがとらえたTVゲームタスク時の前頭葉のヘモグロビン濃度分布の状態
(左から)酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン、トータルヘモグロビン)

ヘモグロビンの吸光スペクトル特性

酸素化ヘモグロビン(HbO2)および脱酸素化ヘモグロビン(Hb)の吸光スペクトル特性

2.測定原理と特長


生体活動を維持するには酸素は不可欠な要素です。しかし光を用いて生体内の酸素を直接測定することはできません。そこで浜松ホトニクスは酸素代謝に関与する血液中のヘモグロビンなどの色素蛋白が、酸素と結合した状態と解離した状態とでは吸光スペクトルが異なる性質に注目し、これらのスペクトル変化をとらえることにより、間接的に生体内の酸素代謝を知ることができる技術を開発しました。

代謝の画像化は、PET(陽電子放出画像撮影 Positron Emission Tomography)やfMRI(機能的磁気共鳴画像装置 functional Magnetic Resonance Imaging)を用いれば現状でも可能ですが、これらは大がかりな装置を必要とし、大きなコストがかかります。また、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンを区別して測定することはできません。

PETで使用されるアイソトープやfMRIが用いる高磁場は、通常の計測では十分安全なレベルであると言われていますが、近赤外光による生体計測は安全性においてもこれらより大きなアドバンテージがあるといえます。また、測定の際に身体を固定する必要がないため、自由行動下での観察が可能です。したがって、 簡便に、安全かつ非侵襲に、連続して測定可能な究極の画像診断装置として、近赤外光による生体計測は注目されているのです。

3.「時間分解分光法」


脳はしわのある独特の構造をしているため、実際に反応した部位を特定するには血流などを三次元(3D)的にとらえる必要があります。しかし、脳内ヘモグロビン濃度分布の3D的な情報表現は従来はありませんでした。

従来の「光マッピング法」による脳の測定では、検出器の中央が測定情報を代表しており、二次元(2D)の情報しか得ることができませんでした。つまり脳の変化を表面から見ることはできますが、内部がどうなっているかまでは詳しく知ることができなかったのです。

脳内の様子の画像化を困難にしているのは、脳が非常に強い散乱体であり、光路長(光が進んだ距離)を特定することが難しいことです。

浜松ホトニクスの「反射型拡散光トモグラフィ(RDOT)」では、光源に連続光ではなくパルス光を採用しました。パルス光は生体内部で散乱し、その結果、光は時間に応じた様々な光路を取ります。

浜松ホトニクスはこのパルス光の広がりの様子を「時間分解分光法」(TRS: Time Resolved Spectroscopy)によってとらえ、脳の活動を3D画像として再構成する独自のアルゴリズムを開発しました。「反射型拡散光トモグラフィ(RDOT)」にはこれらの技術が活かされているのです。
2Dと3D



時間分解測定


4.「反射型拡散光トモグラフィ」の未来


身体の動作と脳内の血液動態の関係はまだ解明されていない領域です。また、脳の機能と心との関連もまだ明らかにはされていない未知の領域です。しかし、光と生体の相互作用の研究の彼方には、人間の心と身体の秘密を解明する手がかりがあることは間違いないでしょう。

「反射型拡散光トモグラフィ(RDOT)」が高次脳機能の解明や認知症の早期診断、さらにはBrain-Machine Interfaceの研究分野で脳をめぐる新たな可能性の探究に貢献する日も近いでしょう。

またこのような光生体計測技術は脳の研究以外にも、生体組織の性質を診断する光バイオプシーの研究や、乳がんの発見、腕や脚の運動機能の解明など、他の生体計測の分野にも幅広い応用が期待されています。



関連論文



Yukio Ueda, Takeshi Yamanaka, Daisuke Yamashita, Toshihiko Suzuki,
Etsuko Ohmae, Motoki Oda and Yutaka Yamashita
Japanese Journal of Applied Physics Vol. 44, No. 38, 2005, pp.L1203-L1206


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