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遅延発光による環境計測の可能性


「遅延発光」とは?

「遅延発光(delayed luminescence)」は「遅延蛍光(delayed fluorescence)」とも呼ばれ、光照射により生じる発光(optically stimulated luminescence)の一種です。動物や植物を形作っている物質は、多かれ少なかれ、光を当てると蛍光を発します。通常の「蛍光(fluorescence)」とはマイクロ秒から時にはピコ秒(10-12秒)という非常に短い時間で減衰するものを言いますが、数秒〜数十秒程度にわたってゆっくりと減衰する発光現象のことを「遅延発光」といいます。

この遅延発光は、通常の蛍光と比べて非常に微弱であるため、計測が困難です。このため、この現象は50年ほど前から知られてはいましたが、発生するメカニズムについては諸説あり、まだよくわかっていません。また、研究をしているのは一部の研究者だけにとどまっていました。

浜松ホトニクスでは、10年以上も前からこの遅延発光に注目し、光量が少なすぎてほとんど研究されてこなかった数秒〜数十秒といった長時間の遅延発光について、自社の微弱光計測技術を使って研究してきました。そして、さまざまな生物の遅延発光のデータと測定ノウハウを蓄積してゆく中で、このメカニズムが徐々に解明されようとしています。

また浜松ホトニクスは、遅延発光が藻類の光合成代謝を直接的に反映する特性に注目し、遅延発光の計測技術が、藻類に対する化学物質の影響を評価する手法のひとつとして応用出来るのではないかと考えています。その計測装置の開発との試験手法の実用化に向けた研究を進めています。

植物の葉の遅延発光画像

植物の葉(左)と遅延発光画像の例(右):葉緑素の少ない部分は、遅延発光も少ないことが分かる。


生物と化学物質

化学物質による環境汚染問題というと、ダイオキシン問題や公害病など、人間がその物質に触れたり、その物質を取り込んでいる動植物や魚などを食べたりすることで、健康被害を受ける物質にまず目が行きがちです。しかし、人間にとって害となる化学物質だけを調査していても、十分とは言えません。

例えば、ある化学物質が、生態系を構成するいずれかの生物に深刻な悪影響を与え、それによって生態系のバランスが変わってしまったとしましょう。そうすると、他の生物や環境全体に対して、どこにどのような形での影響が発生するか分かりません。私たち人間を含むどの生物も、思いもよらぬ理由で、直接・間接にその化学物質の脅威にさらされる恐れがあるのです。

それゆえに、動植物に対する化学物質の有害性の評価(生態リスク評価 Ecological Risk Assessment)が必要とされています。改正化学物質審査規制法 、改正農薬取締法 では新規化学物質に対して、藻類・ミジンコ・魚類を用いた生態リスク評価が求められるようになりました。

そのうちの「藻類」に関しては、一般に、経済協力開発機構(OECD )が定めたテストガイドライン201(TG-201)に準じた72時間藻類生長阻害試験(Alga Growth inhibition test)が用いられています。生長阻害試験法とは、検査する化学物質を与えた緑藻 を72時間培養して、その生長阻害の様子を見ることで、化学物質の影響を見る方法です。

この方法では、前培養 などの準備を含めると、ひとつの化学物質を調べるのに非常に時間がかかることに加え、培養には特殊な専門家を必要とするなどコスト的な負担も大きくなってしまいます。このため、10万種類以上流通しているとも言われる化学物質を、全て調査することは容易ではありません。

このような状況から、世界中で、迅速かつ簡便な化学物質生態リスク評価の手法が求められるようになってきました。

また現状、リスク評価の基準が化学物質による生長阻害のみで、毒性発現のメカニズムなどの質的評価が行われていないことも、環境保全の推進のためには不十分であるという指摘がされるようになってきました。

緑藻とその遅延発光画像
緑藻(左)とその遅延発光画像(右)

「遅延発光」による藻類の生態リスク評価への可能性

1980年代から、藻類に対する有害物質の影響評価に、遅延発光が応用できる可能性が示唆されてきました。しかしこれまでは、簡便で高精度な遅延発光検出技術が開発されていなかったため、比較的容易に計測が可能なクロロフィル蛍光を応用した研究が先行していました。

遅延発光による試験法では、計測からデータ解析まで含めて数時間程度という短時間で評価可能である点を生かし、試験に数日必要な従来の生長阻害試験法の簡易なスクリーニング手法として活用できる可能性があります。

さらに、将来的には化学物質による藻類の生長阻害の判定に加えて、代謝阻害経路の推定による毒性発現メカニズムの評価への応用も期待出来ると考えています。

浜松ホトニクスでは、これまでの技術的課題を解決した計測装置の開発と、藻類の取り扱いが容易で生態リスク評価の必要条件を満たした計測のキット化による、低コストかつ簡便な試験手法の実用化に取り組んでいます。


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関連論文

Rapid ecotoxicological bioassay using delayed fluorescence
in the green alga Pseudokirchneriella subcapitata
,
Water Research, Volume 40, Issue 18, October 2006, Pages 3393-3400

 
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