ふつう光学顕微鏡と言う場合は、観察したい試料に光を照明し、透過光・反射光など試料からの光を対物レンズで像を拡大する「明視野顕微鏡」を想像しますが、顕微鏡にはほかにもさまざまな種類があります。
「位相差顕微鏡」とは、屈折率がまわりと異なる試料の内部を光が通過した際の位相のずれ(位相差)を利用して無色透明な試料を可視化する顕微鏡です。生物細胞などほとんど透明な試料の構造を観察する場合には、「明視野顕微鏡」ではなく,この「位相差顕微鏡」が威力を発揮します。
「位相差顕微鏡」はテレビ番組で「サラサラ血/ドロドロ血」や歯周病菌の観察に使われているので、それと知らずに見たことのある方も多いのではないかと思います。また健康被害を引き起こすことで問題となっているアスベスト(石綿)もガラス質で透明なため,位相差顕微鏡で検査することができます。
しかし、ここでご紹介したいのは、さらに進んだ、最先端の顕微鏡技術なのです。
「位相差顕微鏡」は、生物細胞の観察にすでに使われて来ましたが、この方法では、図に示すような位相差を定量的に測定することができませんでした。このため、定量的な測定は、走査型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡に限られていました。しかしこれらは、侵襲的かつ細胞の前処理が必要なため、生きている細胞を動的に観察はできないという限界がありました。
浜松ホトニクスはマイケル・フェルド教授のグループとの共同研究により、光干渉技術を用いてホログラムを作成、解析することにより、定量的な位相画像が得られ、ナノメートルの感度とミリ秒の応答速度を持った、定量位相イメージング技術を研究開発中です。
この定量位相イメージング技術はファイバー光学系を用いて倒立型顕微鏡に導入されました。これを「定量位相顕微鏡」と呼び、物体光と参照光より作成された1枚のホログラムから、生きた細胞の定量的な位相画像を得ることが出来ます。「定量位相顕微鏡」は、汎用の高速カメラと組み合わせることによりナノメーターレベルの変化をミリ秒単位で高速に動画記録することが可能です。
私たちの知的好奇心は、人間を知ること、脳を知ること、心を知ることです。そのためには生命の最小単位である細胞を解析することがそれらを理解していく手助けとなり、我々の真の健康を追及することになります。将来、私たちの体内で個々の細胞が通信しあい奏でる“細胞オーケストラ”を聴くことができるかもしれません。
定量位相顕微鏡を用いた細胞の定量解析技術の発展が、細胞診断、ガンの早期発見、マラリア治療、アルツハイマー予防などの研究に貢献することでしょう。